減塩におけるうま味物質に関する学術情報

ナトリウム摂取量削減におけるうま味物質の寄与

背景

世界保健機関(WHO)が勧告する成人のナトリウム摂取量は2g /日(食塩相当で5g/日)である。しかし、現在の全世界の平均ナトリウム摂取量は3.95g /日と推定されており(Mozaffarian et al. 2014)、WHOの勧告より多くのナトリウムを摂取している。 高ナトリウム摂取は高血圧、心血管疾患、脳卒中などの様々な非伝染性疾患(NCD)に関連すると報告されており、ナトリウム摂取量の削減は世界の公衆衛生上の懸念事項である(WHO、2003)。

うま味物質と減塩

食事中のナトリウムの削減は重要であるが、食品中の食塩(NaCl)濃度が減少すると、その嗜好性も一般に低下する。 しかし、適切な量のうま味物質(グルタミン酸ナトリウム(MSG))を添加することにより、低食塩食品の嗜好性を回復させることができ、食品中の全ナトリウム含有量を実質的に減少させることができることが知られている。(うま味物質であるMSGは約12%のナトリウムを含有するものの、通常の食塩に含まれるナトリウム(約39%)の半分以下である。)

食事中のナトリウムの削減は、グルタミン酸カルシウム(CDG)やグルタミン酸マグネシウム(MDG)等のナトリウムを含有しないグルタミン酸塩でも得られる。これらのグルタミン酸塩はMSGよりもわずかに弱いもののMSGと類似の風味増強特性を示すため、ナトリウムの摂取に寄与することなく、食品の嗜好性を維持することができる。

官能評価によるグルタミン酸塩の減塩への寄与の研究

これまで多くの研究によって、グルタミン酸塩がスープ、加工食品、加工肉および乳製品を含む様々な種類の食物の嗜好性を高めることによって、食事中の食塩の使用の削減に寄与することが示されている。

YamaguchiらはMSGの有無が塩分濃度の異なる吸い物の嗜好性にどのような影響を与えるか検討した(図1)。食塩単独の場合には至適濃度は0.92%でそれ以上の濃度では吸い物の嗜好性は顕著に低下した。一方、0.38%のMSG及び0.41%の食塩を混合して添加することにより、食塩を0.92%添加した際に得られた評価と同等の嗜好性が得られた。0.38%のMSG及び0.41%の食塩のナトリウム含量の合計は0.21%であり、0.92%の食塩のナトリウム含量である0.36%と比較すると、40%のナトリウムを削減したことになる。(Yamaguchi & Takahashi, 1984).

Fig 1. Palatability scores of clear soup at various concentrations of NaCl
(Yamaguchi and Takahashi, J. Food Sci. 49(1):82-85, 1984を改変)

米国においても、食塩の一部をMSGで置き換えることでナトリウム量を削減したチキンスープが通常のチキンスープと同等の嗜好性スコアを達成しうることが示された。(Chi and Chen, 1992)

フィンランドにおいても減塩スープの美味しさへのうま味物質の影響が研究されている。被検者らにMSG添加または非添加の減塩スープを摂取させたところ、いずれの塩分濃度でもMSGを添加したスープで嗜好性スコアが高く、著者らは減塩食の嗜好性はMSGのようなうま味物質の添加によって向上しうると結論付けている。(Roininen et al., 1996)

オーストラリアの研究グループは市販のかぼちゃスープの味覚受容性を維持したまま、MSGまたはCDGでの食塩の代替を試みた。対照のスープと比較して、食塩とCDGの組み合わせで調製したスープでは40%のナトリウムが削減された。(Ball et al., 2002)

他のアメリカの研究においても、CDGが嗜好性や美味しさを保ったまま部分的に食塩を代替しうることが示されている。食塩を0.85%含むチキンスープの嗜好性と、食塩0.55%とCDG 0.33%を含むチキンスープは同等の嗜好性を示し、有意な違いがないことを明らかにした。これらのデータからはCDGによって、38%のナトリウムの削減が可能であることが示された。(Carter et al., 2011)

ブラジルのグループは、MSGと塩化カリウムによって食塩を25%及び50%代替したニンニク風味塩調味料の調理米飯への応用について検討し、嗜好性が維持されることを示した。(Rodrigues et al., 2014)

マレーシアにおいても、郷土食であるスパイシーなスープの食塩とMSGの量を変化させることによりMSGの減塩効果が検討されている。食塩のみを使用した場合には0.8%が至適濃度であったが、食塩の一部を代替し、0.3%の食塩と0.7%のMSGを用いたスープにおいても同じ水準の嗜好性が得られることが示された。(Jinap et al., 2016)

同様にシンガポールで日常的に喫食される屋台食(hawker foods)においてもMSGの減塩効果が検討された。40%減塩食に0.4%のMSGを添加(結果的に22%の減ナトリウム)することで、減塩を行わない対照食と比較して塩味の感じ方を維持できることが示された。(Leong et al., 2016)

複数の研究グループが加工肉や乳製品におけるグルタミン酸塩の減塩効果についても検討している。フランスにおいては、ミートパテにMSGを添加することで食塩含量を減らしても嗜好性が維持されることが示されている。(Bellisle, 1998)

他にもオーストラリアにおいて、CDGを減塩ソーセージの美味しさを向上させる目的で使用し、食塩0.12%及びCDG 0.1%を使用した際に食塩0.69%含有の製品と同様の嗜好性が得られることが示された。(Woodward et al., 2003)

ブラジルにおいてMSGを他のうま味物質(イノシン酸、グアニル酸)やアミノ酸(リジン、タウリン)と組み合わせることで、50%及び75%の塩分を塩化カリウムで代替したソーセージの好ましくない苦みや渋み、金属味を軽減する事が示された。(dos Santos et al., 2014)

別の試験においても、MSGを塩化カリウムと組み合わせて用いることで、最大54%ナトリウムを削減した減ナトリウムモッツァレラチーズの味の受容特性が維持された。(Rodriguez, 2014).

官能評価以外によるグルタミン酸塩の減塩への寄与の研究

減塩食品による官能試験以外にも、Kawanoらはグルタミン酸塩(MDG)を減塩食の一環として利用し、摂食量やナトリウム摂取量への影響を臨床試験により検討している。数週間にわたり、精神病患者のグループに交互に通常食(3.28g sodium / day)及びMDGを含む減塩食(2.43g sodium / day)を提供した。被検者の摂食量は通常食とMDGを含む減塩食で有意に変化せず、嗜好性が損なわれていないことが示された。結果として、MDGを含む減塩食を食べることで、一日平均0.85g のナトリウム摂取が削減された。(Kawano et al., 2015)

公的保健機関によるグルタミン酸塩による減塩効果の認知

2010年、米国医学研究所(IOM)はうま味物質が食塩の使用量の削減に有効であるとの表明を行った。米国のナトリウム摂取量削減のための戦略に関するIOMの報告書では、「食品中の塩分をその他の味や香りを呈する物質である程度代替することが可能である。添加される物質の顕著な例としてグルタミン酸が挙げられる。MSGは塩味と共に“Umami”と呼ばれる風味の良い味(savory teste)を呈する。そして、MSGである程度の食塩を置き換えることによって、食べ物の美味しさを維持しながら総合的にナトリウム量を削減可能であることが複数の研究によって示されている」と述べられている。(IOM, 2010)

2013年、米国栄養士会(Academy of Nutrition and Dietetics; AND)はうま味物質(MSG等)やうま味を豊富に含む食品(醤油や魚醤等)が食品中のナトリウム含量やナトリウム摂取に与える影響についてシステマティックレビューを実施した。レビューされたエビデンスに基づき、「うま味物質やうま味が豊富な食品の添加は、食品の味や嗜好性、好ましさを損なうことなく、ナトリウム含量の削減を可能にする。しかしながら達成されるナトリウムの削減量はどのようなうま味物質がどのくらい存在するかに依存するのと同様に、食品の種類に依存する」と結論付けた。(Academy of Nutrition and Dietetics, 2013)

結論

ナトリウムの摂取量の削減は世界的な健康上の大きな課題である。しかし、塩味は食品の美味しさに関わる重要な基本味であるため、美味しい減塩食品を開発することは困難である。
様々な地域で実施された研究から得られた広範なエビデンスによって、様々な異なる文化的伝統に属する様々な種類の食品にグルタミン酸塩を添加することにより、好ましさを損なうことなく相当なナトリウム摂取の削減が可能であることが示されている。
一方、これらの研究は官能評価に頼ったものが殆どで、このうま味物質の効果を客観的に説明するため、官能評価のみに頼らない新たな切り口のエビデンスが求められている。

参考文献

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Kawano, R., Ishida, M., Kimura, E., Matsumoto, H. & Arai, H., Pilot intervention study of a low-salt diet with monomagnesium di-L-glutamate as an umami seasoning in psychiatric inpatients. Pyschogeriatrics, 15(1):38-42, 2015.

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